【観察眼】なぜ「パンドラの箱」を開けるのか?

CGTN

「中国の友人と連絡を取り合うだけでスパイ活動を疑われるような世の中になりませんように」

これは、日本の市民団体「奈良・長谷川テル顕彰の会」の関係者が最近、知人に送ったメールの一節だ。

長谷川テル(1912-1947)は、日本のエスペランティストだ。1937年に中国に渡り、日本軍に停戦を呼びかける日本語放送のアナウンサーとして、またエスペラント語の作家として、声とペンを武器に日本軍による中国侵略の実態を世界に訴え続けた。1932年、20歳だったテルは奈良女子高等師範学校の卒業間近に、エスペラント語の学習を始めた。そして、地元の労農組合や文化団体と接触したというだけの理由で、治安維持法違反の容疑で検挙され、退学処分を受けた。これは94年前の出来事だが、これからの日本で同じようなことが起こらないかと憂慮の声が上がっている。

5月27日、日本国会の参議院で国家情報会議設置法が成立(写真:CFP)

2026年5月27日、「国家情報会議」設置法が参院本会議で可決成立した。これにより、日本は新たなインテリジェンス体制の構築に本格的に乗り出すことになる。今後は「スパイ防止法」の制定や対外情報機関の創設など、一連の動きも視野に入っているとされる。その一環として、外国のために活動する団体や個人を登録させ、活動内容や資金の報告義務を課す「外国代理人制度」の整備も取り沙汰されている。しかし、「外国のための活動」とは何を指すのか、その定義はあいまいで、経済活動から学術・文化交流まで幅広く対象とされる恐れがあると指摘されている。市民団体関係者の懸念は決して杞憂ではない。

歴史を振り返れば、日本は1925年に制定された「治安維持法」を根拠に、それまで警視庁に置かれていた「特別高等警察課(特高)」を全府県へと拡大した。特高は名目上、社会主義・共産主義の「思想犯」や政治運動の取り締まりを目的としていた。しかし実際には、知識人、労働組合員、宗教団体、さらには一般の反戦市民にまで監視、尋問、弾圧の手を伸ばした。この巨大な監視と弾圧の網は、日本が軍国主義の道へと突き進むなかで、あらゆる異論を封じ込め、その後、1931〜1945年の侵略戦争への道を「順調」に切り開く役割を果たした。治安維持法により検挙・迫害された人は数十万人にのぼるとされ、作家の小林多喜二や哲学者の三木清など、命を奪われた人も少なくなかった。

「治安維持法」と「特高」は日本の敗戦とともに消滅した。しかし戦後、国家による謝罪と賠償を求める「治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟」の訴えは今も聞き届けられておらず、その闘いは続いている。その一方で、元特高の官僚の中には、戦後、国会議員や閣僚にまで上り詰めた人物も複数いる。これは、戦後の日本政府が、自国民に対してすら歴史的責任を果たしてこなかったことを雄弁に物語っている。

日本国憲法第9条は、戦争の放棄と戦力の不保持を明記している。これにより、日本では長年、国家レベルの対外情報機関の設置が法理的に制限されてきた。この束縛を突破するため、日本の与党は水面下で「サラミスライス戦術」のような漸進的な戦略を採ってきた。2013年には国家安全保障会議と国家安全保障局を設立し、同年に「特定秘密保護法」を強行採決した。さらに2017年には「共謀罪」法とも呼ばれる改正組織的犯罪処罰法が施行され、「テロ等準備罪」が新設された。これにより、組織的犯罪集団による重大犯罪の「計画」と、その実行に向けた「準備行為」が処罰対象となった。そして今、「国家情報会議設置法」の発効とそれに続く一連の法整備により、日本は国内外を覆う監視網の構築を本格化させようとしている。

5月27日、国家情報会議設置法成立を受け、記者会見に臨む高市早苗首相(写真:CFP)

高市首相が肝入りで進める新たなインテリジェンス体制をめぐっては、権力が過度に集中する一方で、それをチェックする法的な歯止めや監視の仕組みが十分ではないとして、国内でも議論を呼んでいる。問題は、こうした情報判断と意思決定が首相官邸に集中し、与党や国家安全保障当局と重なる限られたメンバーだけで担われる点にある。行政が「不審人物」を独自に認定する権限を握れば、権力の乱用や監視の際限なき拡大を招きかねない。

特に警戒すべきは、この新たなインテリジェンス体制が、高市内閣による安全保障面での戦後最大級の転換と同時並行で進められていることだ。自衛隊の大規模な改編、殺傷能力のある武器の輸出解禁、長距離ミサイルの配備――こうした動きと一体となって推進される国家情報局の新設は、日本の攻撃的な防衛政策に情報面での支援を提供するものとなる。

地域の安全保障という観点からも看過できない。高市政権が目指すインテリジェンス体制は、日本を米欧の情報システムに深く組み込み、アジア太平洋地域における米国の「情報前哨基地」へと変えていくことを意味する。これは地域の緊張を高め、相互信頼の基盤を損なうだけでなく、日本が「専守防衛」を事実上放棄し、対外的な攻撃力をもつ軍事大国へと歩み出すことを示している。新たな情報体制は、戦後の国際秩序を揺るがせ、平和憲法を形骸化させる決定的な一歩だと言える。

新たなインテリジェンス体制は、国内では「萎縮効果」を生み、社会の自由で健全な言論・活動空間を狭め、対外的には近隣諸国の不信感を強める。こうした情報体制が日本に真の安全をもたらすと本当に言えるのだろうか。それはむしろ、「パンドラの箱」を開けることにほかならないのではないか。

歴史の分岐点に立つ今、高市首相率いる日本政府に問いたい。なぜ「パンドラの箱」を開けようとするのか、その本当の狙いはどこにあるのか、と。(CMG日本語論説員)

06-01 18:11

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