「いまこそ村山談話を想起するとき」 ジャーナリスト・乗松聡子さん 高市発言撤回を求める

KANKANインタビュー

「村山談話の会」緊急記者会見の様子(2025年12月8日・東京)

2025年12月8日、民間団体「村山首相談話を継承し発展させる会」(「村山談話の会」)は東京で緊急記者会見を開き、高市首相の「台湾有事は存立危機事態」発言の撤回を強く求めた。呼びかけ人やメディア関係者約80人が出席した。会見では、一人の女性が鋭い言葉を発した。

「88年前の12月13日、日本では『南京陥落』を祝い、至る所で提灯行列や旗行列が行われました。高市首相の挑発的な行為を戒めることなく、支持率が上昇している現在の日本の姿は、戦時中の旗行列、提灯行列と重なります。行き着く先は破滅です」

こう発言したのは、日本語と英語で歴史と平和を発信し続けてきたカナダ・バンクーバー在住のジャーナリストの乗松聡子さんだ。高市発言の撤回を求める理由や、国際的な経験から得た思いをリモート取材で聞いた。

■“高市答弁”は「加害国としてあるまじき行為」

今回の会見では、呼びかけ人約20人の署名入り共同声明が発表された。乗松さんはその原案の執筆者だ。声明は高市発言の三つの問題点を指摘している。

まずは、1972年の日中共同声明で約束した一つの中国の原則への尊重が破られたこと。次に、日本が台湾への再介入を示唆するのは、中国にとって「再侵略宣言」に等しいということ。日本には、1874年の台湾出兵を近代侵略戦争の起点とし、1894年の甲午戦争を契機に台湾を植民地化するに至った歴史がある。三つ目に、抗日戦争勝利80年の節目にこのような挑発を行うことは、加害国としてあるまじき行為であること。

緊急記者会見で発言する乗松聡子さん(2025年12月8日・東京)

戦後80年にあたる2025年が終わりを迎える今、日本政府の姿に乗松さんは無念さを訴える。

「日本の敗戦50周年に、村山富市首相が日本の首相として初めて、『植民地支配』と『侵略』に『痛切な反省の意』と『心からのお詫び』を表明しました。敗戦80周年の今年、日本は例年にも増して、厳粛に、謙虚に、加害の歴史を振り返り、日本国憲法にある『政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする』誓いを新たにする年とするはずでした。しかし、年末に向け、まさに真逆の道を進んでいます」

■原点は「アジア人としてのアイデンティティ」

「中国の人々と交流すると、日本人以上に村山談話を記憶し、重んじてくれている。中国側の思いに応え、『村山談話の会』として行動しなければならない」

このように話す乗松さんの活動の原動力は、若い頃の経験にある。高校2年でカナダへ渡り、国際学校で70カ国からの200人の学生とともに寮生活を送った。アジア諸国からの留学生との交流を通して、日本軍の加害歴史を初めて知り、「日本人よりアジア人としてのアイデンティティ」が芽生え、それが反戦平和活動の出発点となったそうだ。

中国訪問中の乗松聡子さん(2025年11月)

2025年、乗松さんは中国を2度訪問した。6月は現在の東北部にある「万人坑」をめぐり、11月には日本軍の大空襲を受けた重慶をはじめとする西南・中南部を巡った。また、「第二の南京大虐殺」と呼ばれる湖南省廠窖の惨殺現場を訪れ、「行くまでに聞いたこともなかった地名もあり、恥ずかしい思いがした」「知られざる場所でも記念館を建て、歴史を保存する中国の姿勢に感動した」と語る。

湖南省廠窖惨案の地(2025年6月・湖南省)

「これらは中国だけの歴史ではなく、世界反ファシズム戦争の一部。人類共通の記憶として、悲劇を二度と繰り返さない決意を共有すべきです」

■南京大虐殺は人類共通の記憶

乗松さんが特に深く向き合っているのが南京大虐殺だ。1937年12月13日の南京陥落後の6週間で、日本軍により市内と周辺地域で殺害された人数は30万人余りとされる。2014年、中国は12月13日を国家追悼日に指定した。

2025年12月13日に南京市内の虐殺発生地で行われている追悼式

毎年この時期、乗松さんはキャンドルウォーク、映画上映会、追悼ワークショップなどを行って、記憶を継ごうとしている。「本や映画は何度読んでも観ても、心に重くのしかかる。特に女性への性暴力と殺害の残酷さは言葉にできない」。そして、当時、金陵女子大学で女性をかくまった米国人のミニー・ヴォートリンさん(1886-1941)や、『レイプ・オブ・南京』の著者、アイリス・チャンさん(1968-2004)両名の自殺に触れ、「南京大虐殺を目撃、またはその歴史を調査した女性として、絶望を味わったことと無関係ではない」と指摘する。

■日本語圏の歴史認識は海外の常識とは異なる

カナダ生活通算30年となる乗松さんは、日本と行き来する中で、焦れったさを感じると語る。

「南京大虐殺や『慰安婦』を否定しているのは日本語圏の人たちだけ。(それが事実であったことは)一歩海外へ出れば常識で、学術的にも確立されています」

乗松さんは、南京大虐殺の扱いを例に、日本の学校教育では南京大虐殺を全体的に軽視する傾向があり、「犠牲者数には諸説あり、わからない事件」という印象を与えていると指摘する。そして、政府が「非戦闘員の殺害・略奪は否定できない」と認めつつ、捕虜処刑や性暴力、犠牲者数を曖昧にしている。それだけ、南京大虐殺は「日本軍残虐性の象徴だからだ」と分析する。

遼寧省阜新万人坑遺跡にある記念碑

海外の視点もよく知っている乗松さんからみれば、日本で行われている「平和教育」は、原爆や空爆の被害を取り上げ、「戦争はいけない」「平和を祈る」と言うだけの「漠然とした平和教育」でしかない。それよりも「日本による加害の歴史に自覚を持つべきだ」と主張する。

遼寧省阜新万人坑遺跡陳列館

■高市発言の撤回は日本の自立した平和的外交への第一歩

2025年11月の高市首相の「存立危機事態」発言は、両国関係を正常化以来最大の危機的状態に陥れた。乗松さんは、危機を招いているのは、日本側の歴史認識の欠如だとし、歴史の共有こそが両国の友好の第一歩と強く訴える。

さらに、日本国内で「歴史否定と共に反中キャンペーンが横行している」と指摘し、その背後には、米国による中国封じ込め政策があると指摘する。

「日本は米国に言われるがまま、軍事予算を増加させ、沖縄列島や西日本を軍事基地強化し、米国とともに近海での軍事演習を大展開しています。日本が再び東アジアを戦場にすることを防ぎ、また、自立した平和的外交を築く必要があります。その第一歩が、高市首相の『存立危機事態』発言の明確な撤回です」

乗松さんの言葉は、日本が村山談話を守り、加害の歴史に向き合うことの重要性を改めて突きつけている。(取材・記事:王小燕、校正:鳴海)

【乗松聡子さん】

「村山首相談話を継承し発展させる会」会員

「バンクーバー9条の会」共同代表

平和教育のためのプラットフォーム「ピースフィロソフィーセンター」創設者、代表

【過去の記事】

南京大虐殺から88年 「歴史の直視が平和への第一歩」と日本人若手研究者・青山英明氏

中国の日本問題専門家・楊伯江氏 高市発言にみる「日本の新型軍国主義台頭加速の動き」に警戒を

コラムニスト・本田善彦さん「高市政権の価値観こそが日本を真の『存立危機事態』に陥れる」

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