


スマートフォンの普及に伴い、縦長画面に、1話あたり数分という短い尺で見る人を引き込む「縦型ショートドラマ(微短劇、以下「ショートドラマ」)」が、いま世界で存在感を高めている。調査会社MPA(Media Partners Asia)は、2030 年には世界のショートドラマ市場の年間収益が 250 億ドル(約4兆円)を超えると予測している。
中国では、2025 年にショートドラマのユーザー規模が7億人に迫り、普及率は 59.7%に達した。主な収益源は課金収入と広告収入で、市場規模は1000 億元(約 2 兆円)を超え、同年の映画興行収入のほぼ 2 倍に達した。
一方で、急成長の裏では、コンテンツの質のばらつきや青少年の価値観への影響といった課題も浮かび上がっている。今年の全人代や政協会議の年次会議でも、ショートドラマは議論の焦点の一つとなった。
なぜショートドラマはここまで広がったのか。今後どこへ向かうのか、そして異文化交流にどのような役割を果たし得るのか。ショートドラマの規範化や質の向上を訴え続けてきた全国政協委員で、映画史家、日本語月刊誌『人民中国』元編集長の王衆一氏にインタビューした。
■「ショートドラマは映画と似た歴史をたどろうとしている」
王氏は、ショートドラマの発展を130 年前の映画誕生になぞらえて捉えている。
「映画が誕生した1895 年頃、リュミエール兄弟の『列車の到着』の上映時間はわずか50秒だった。当時、演劇や舞台の関係者はそれを『小屋掛けの興行』と軽蔑していた。しかし、その後、映画はエンターテインメントの覇者となった。今日のショートドラマも、技術、需要、政策が共振する中で、よく似た成長経路をたどろうとしている」
ショートドラマ視聴プラットホームの作品一覧
王氏は、ショートドラマが急速に広がった背景には、モバイルインターネット時代のニーズを的確に捉えたことがあると見る。スマホで見やすい縦画面、すきま時間でも楽しめる数分単位の長さ、「短く、分かりやすく、展開が速い」ストーリー構成、そして登場人物同士の感情のぶつかり合い。こうした要素が、視聴者に即座に感情的な満足感を与え、現代人のストレスや不安をやわらげる“心理的マッサージ”のような役割を果たしているという。
さらに、制作の敷居が低く、配信チャネルも多いことから、プロの製作陣だけでなく、一般のネットユーザーや企業なども参入しやすい。そうした開かれたエコシステムも、ショートドラマの急拡大を支えている。

■数百万人規模の雇用を生む新興産業に
ショートドラマがもたらす経済効果には目を見張る。データによると、中国のショートドラマ業界は直接的に200万を超える雇用を創出しており、上下流の関連産業を含めれば雇用規模は300万〜400万人に達する。しかも、その多くは中小都市や県、農村部に集中している。
一部の都市では、空きオフィスビルや、資金難などで工事が止まった未完成ビルを撮影基地へと改装する動きも進んでおり、遊休資産の有効活用としても注目されている。現在、鄭州、西安、杭州臨平、寧波などでは、ショートドラマが重点育成産業の一つに位置づけられている。
浙江省東陽市 横店影視城(2026年1月)写真=CFP
浙江省の有名な映画・ドラマ撮影基地「横店」は、ショートドラマの繁栄により“竪店(縦画面の街)”と揶揄されるほどに様変わりし、産業転換の象徴となっている。
■課題はあるが、コンテンツの質は着実に進化
もちろん、問題も少なくない。作品の質には大きなばらつきがあり、似たような設定の乱立や、いわゆる「棚ぼた」的な成功を礼賛するような価値観を振りまく作品もある。王氏も、こうした問題意識から、制作や配信のルール整備、業界の規範化を訴えてきた。
ただし、近年はポジティブな変化も目立ってきたという。


内容面では、単なるストレス発散型の娯楽にとどまらず、中医学、中国庭園、無形文化遺産、美食など、中国文化の要素を巧みに取り入れた作品が増えている。例えば、表装工芸をテーマにした『墨韻新生』や、文化財修復を扱った『重回永楽大典』などは、物語としての面白さに加え、伝統文化の奥行きも伝える作品に仕上がっている。さらに、実力派俳優や経験豊富な制作スタッフの参加によって、作品クオリティは向上し続けている。
武漢でのショートドラマ撮影風景(2026年2月)写真=CFP
産業との融合も進んでいる。ショートドラマは、観光、スポーツ、無形文化遺産、科学普及といった分野との結びつきを深めており、「オンラインで集客し、オフラインで消費につなげる」という形で、社会的価値と商業的利益の両立を実現している。
■縦画面だけにとどまらない広がり
ショートドラマはスマホ視聴を前提としたコンテンツだが、最近では伝統メディアへの波及も始まっている。2025年には、1話約20分の「中劇(ミドルドラマ)」というカテゴリーが新たに登場し、今後は長・中・短編が共存するエコシステムが構築されていくと見られる。
また、ショートドラマをテレビ局で放送する動きも出ており、縦画面と横画面の垣根を超えた展開も生まれている。
2025年1月に配信開始。CMGと江蘇省連雲港市の共同制作によるショートドラマ『美猴王』
王氏は、ショートドラマは長編映像作品に取って代わるものではなく、両者にはそれぞれ異なる役割と持ち味があると語る。そのため今後問われるのは、長編の焼き直しではない、ショートドラマ独自の“芸術言語”を確立することにあるという。短い尺だからこそ可能になるテンポ、演出、場面の切り取り方など、このジャンルならではのスタイルや“文法”を形にしていく必要があると強調した。
■AI時代だからこそ求められる「トラフィック至上」から「コンテンツ至上」への移行
2025年、中国で制作されたショートドラマのタイトル数は3万3000本に上った。しかし、AI技術の普及によって、その数はさらに増える可能性が高い。
AI生成コンテンツ(AIGC)の活用により、原作の分解、キャラクターデザイン、絵コンテ生成、動画合成まで、制作工程の多くを自動化できる。3人のチームが5日で再生回数2億超の作品を作り上げたり、1人で1日100話分を生産したりすることも不可能ではない。効率面では、もはや従来の手作業が太刀打ちできないレベルに達しつつある。
2026年2月配信開始。わずか29時間で再生回数2億回を突破した話題のショートアニメ。AIGC技術を駆使し、3名の制作チームがわずか5日間で完成させた
しかし王氏は、こうした状況だからこそ警戒が必要だと語る。
「技術はあくまで道具であり、人間の創造性を代替することはできない。ショートドラマ界がAIによるコンテンツの大量生産に追われる今こそ、感情的な深みが失われることに注意しなければならない。今のショートドラマ制作は、さまざまな意味で歴史的な転換点に立っている。今後は『トラフィック至上主義』から『コンテンツ至上主義』へと移っていくことが求められる」
■ショートドラマが「世界共通のデジタル言語」になるか
ショートドラマの勢いは、今後どこまで続くのか。王氏は「5年ほどは続くだろう」と見通したうえで、「その後にはまた新しい配信形式が現れるかもしれない。それは世界全体が注視すべき動きだ」と話す。
『西遊記』第1〜7回を原作とするショートドラマ『美猴王』
王氏がショートドラマに強い関心を寄せる理由は、単に新しいエンターテインメントだからではない。彼は、ショートドラマは現代中国、そして中国人の姿を映す鏡でもあると捉えている。そのため、「外国人が中国語を学んだり、中国社会を理解したりするうえでも役立つ」として、その活用に期待を寄せる。
さらに王氏は、「中国発のショートドラマは、将来、日本の漫画のように文化の壁を越え、世界共通のデジタル言語になるかもしれない」と展望する。

AIGC活用SF短編ドラマ『神・筆』。『三体』の劉慈欣氏が監修を務め、2026年2月10日から芒果TVで配信中
■日本でも広がる参入の動き 中日の相互理解の増進に期待
漫画やアニメをはじめ、豊富な映像制作人材を抱える日本でも、ショートドラマ分野への布石が進んでいる。日本メディアの報道によれば、日本テレビ、TBS、吉本興業などの大手が相次いでショートドラマ制作に参入。NTTドコモなど通信大手も、傘下のスタジオに資源を投入し、ショートドラマを通じた若年層との接点づくりや、IP(知的財産権)の確保、さらには長編ドラマ化への展開も視野に入れている。
冒頭では、世界のショートドラマ市場が2030年に250億ドル規模に達するとの予測を紹介したが、市場の拡大余地をさらに大きく見込む調査もある。調査会社YHリサーチは、2026年に中国を除く世界のショートドラマ市場規模が50億ドルを超え、2031年には世界全体で783億ドル(約13兆円)に達し、2024年比で約9倍に拡大するとの見通しを示している。
王氏は最後に、「日本はIP大国であり、豊かな文化的土壌と卓越したコンテンツ創造力に恵まれている。これからは中日の共同制作や、日本のオリジナル作品から良い作品が数多く生まれ、両国の相互理解が一層深まってほしい」と期待を示した。(取材・記事:王小燕、校正:梅田謙)
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