


日本の2026年版外交青書は、中国との関係を「最も重要な二国間」から「重要な隣国」へと位置づけが引き下げられたことの思惑をめぐり、中国社会科学院日本研究所の張勇研究員(外交研究室主任)に話を聞いた。
中国社会科学院日本研究所・張勇研究員(外交研究室主任)
「明確な政治・外交のシグナル」 責任転嫁の思惑も
張研究員は、こうした変更は「単なる表現の調整ではなく、明確な政治的意図に基づく外交シグナル」だとし、「中日関係の悪化が続いていくことを意味すると同時に、日本の対中政策の基調が著しく慎重な方向へと傾いたことを示すものだ」との見方を示す。
「現状の両国関係の冷え込みは、高市首相による台湾問題に関する不適切な発言が発端となったにもかかわらず、日本政府は過ちを反省し是正することなく、関係悪化の事態について、都合よく解釈できるストーリーを作り上げようとしている。これは責任転嫁にほかならず、外交関係の改善には何ら資さない。そうした対応によっても、両国経済が高度に相互依存の関係にあるという事実は変えられない。そればかりか、政治上の相互信頼を損ね、地域の不安定化を招くおそれがあり、日本自身の安全と長期的利益を損なう結果にしかならない」
衆議院本会議に出席する高市早苗首相(手前右)(2026年2月25日・東京)(写真:CFP)
また、張研究員は、日本政府の対中姿勢から現政権の三つの思惑が見え隠れしていると指摘する。
「まずは、自らの過ちを認めず、内外の世論形成を通じて関係悪化の責任を転嫁しようとすること。続いて、対中認識の安全保障問題化・対立化へと傾きつつあり、国交正常化以来の実務的で経済優先の路線から逸脱する傾向が強まっていること。さらに、安全保障と戦略的競争の視点から中国を現実的な脅威として描き出そうとしていること。三つ目に、国内の右派・保守勢力に迎合し、対中強硬姿勢を、政治的支持基盤を固めるための比較的低コストな動員手段として利用していることだ」
日本の対中政策 政治と経済の捩れから見る根深い矛盾
政治・外交の緊張が続く一方で、「2026年版外交青書」の「日中経済関係」の節には、「日中間の貿易・投資などの経済関係は非常に緊密である」と記されている。
現状では、中国は日本にとって最大の貿易相手国であり続けている。また、国際収支統計では、日本にとって中国は対外直接投資(FDI)収益全体の1割強を占める重要な収益源となっている。こうした現実について、張研究員は、「日本の対中政策には、政治・安全分野と経済分野の間に解消困難な矛盾が存在する」と指摘する。
上海港のコンテナターミナルの様子(2026年4月14日・上海)(写真:CFP)
「政治・安全面では『中国脅威論』を強調し、米国主導の枠組みに協調する一方、経済面では中国市場や産業チェーンへの依存が極めて深い。そのため、事実上“デカップリング”につながる経済安保措置の発動は、日本経済に深刻なダメージを与えかねない」
さらに、「ここ数年、世論調査では中国に対する好感度が低い水準で推移しているものの、『中日関係は重要な二国間関係だ』という認識が依然として大きな比重を占めている」としたうえで、「こうした捩れた対中認識が外交青書にも反映され、中国との関係を格下げしつつも、『戦略的互恵関係』の文言を残さざるを得なかった」と分析する。
FIOPは安全・軍事ツールに転換 地域リスクを高める恐れ
2026年版外交青書では、今年で10年目となる「自由で開かれたインド太平洋(FIOP)」が引き続き「日本外交の柱」と位置付けられている。青書は中国、朝鮮、ロシアの軍事的動向を取り上げて、「深刻な懸念事項」と指摘し、東海や南海における「中国による一方的な現状変更の試みや、台湾海峡をめぐる緊張の高まり」を挙げ、日米同盟の抑止力・対処力の一層の強化と同志国との連携を強調している。
日米共同演習を前に、米海軍佐世保基地で合同記者会見を行う自衛隊の統合幕僚長(当時)の吉田圭秀氏(右)と米海軍太平洋艦隊司令官のスティーブン・ケーラー氏(2024年10月22日・長崎)(写真:CFP)
こうした姿勢について、張研究員は三つのシグナルが明確に発信されたとみている。
「第一に、FIOPは安全保障・軍事ツールへと明確に転換してきている。その中心となる内容は同盟ネットワーク、合同軍事演習、武器輸出、地域安全への介入へと傾きつつあり、想定されている対象はもはや明らかである。第二に、日本はFIOPを利用して戦後レジームによる制約を突破するための『正当性』を確保し、防衛予算の拡大や武器輸出の緩和、憲法改正への布石を打とうとしている。第三に、日本は米国の『オフショア・バランシング(海外に大規模駐留軍を置かず、遠隔から地域大国同士をバランスさせ、必要最小限の介入で覇権を維持する現実主義外交戦略)』体制を積極的に受け入れ、自らの軍事面・戦略面での役割を強化することで、地域問題における発言力の拡大を目指している。しかし、こうした動きの制御が困難になれば、地域の安全リスクを著しく高める危険性がある」
ホワイトハウスの国賓夕食会に出席したトランプ米大統領(左)と高市早苗首相(2026年3月19日・ワシントン)(写真:CFP)
今後の中日関係も冷え込みが続く懸念
茂木敏充外相は4月10日、2026年版外交青書の報告を行った閣議で、現在の国際情勢を「歴史の大きな変革期」と位置づけ、「『ポスト冷戦期』といわれた比較的安定した時代は既に終焉を迎えた」との認識を示した。
こうした認識の変化について、張研究員は、日本の対中政策の方向性に直接影響を与えるものとみている。
「まず、中日関係における安全保障面の不確実性が著しく高まり、ゼロサム思考が政策決定を主導する傾向が強まっている。次に、政治的信頼関係を再構築するためのコストは大幅に増大しており、とりわけ台湾問題、歴史問題、軍事面においては、互いに許容し得る余地が極めて限定的になっている。三つ目に、地域協力は安全保障をめぐる対立の余波を受け続けていくだろう。経済・貿易の結びつきそのものは断ち切れないものの、地政学的緊張に左右されやすい状況にある。こうした構図が長引けば、中日関係は相互信頼が低く、冷え込みが続く局面に陥る可能性が極めて高い」
レトリックよりも問題の根源を直視せよ 「信頼醸成」が最重要課題
中日関係が現在の状況から抜け出すには、「言葉のレトリックよりも、日本が問題の根源を直視し、それを是正する意思があるかどうかにかかっている」と張研究員は指摘する。
「まずは、中日間の4つの政治文書を厳守し、一つの中国の原則を堅持するとともに、台湾問題における度重なる挑発をやめることが必要だ。次に、中国を『脅威』とみなす戦略上の誤った判断を是正する必要がある。さらに、国内政治や対米姿勢に外交を左右されるのではなく、長期的な戦略利益を優先すべきだ。そのうえで、中国が不可欠な最重要パートナーであるとの理性的な認識に立ち返る必要がある」
「第18回北京-東京フォーラム」の開幕式(2022年12月7日・北京)。同フォーラムでは、2005〜2024年まで毎年共同世論調査が発表されていた(写真:CFP)
また、「中日関係の安定した発展には、相互信頼の醸成が最重要課題になる」としたうえで、「中日間の4つの政治文書は、関係発展の礎であり、その基本原則を堅持し履行する必要がある。特に台湾問題の適切な処理は、中日関係の『試金石』とも言える」と強調した。
さらに、「現在、中日関係はさらなる対立に滑り込んでいく危険がある」として、「日本はゼロサム思考から速やかに脱却し、両国関係を破壊しようとする勢力に翻弄されるのではなく、中国と共に国交正常化以来の貴重な平和的成果を守り抜くべきだ」と訴えた。
(取材・構成:王小燕、校正:MI)
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