中国から反戦を呼びかけた女性・長谷川テル(後編)~人類の一員として何ができるか

KANKANインタビュー

重慶郭沫若記念館にて

この秋、日本各地から集まった28 人が中国を訪問しました。「長谷川テル顕彰の旅 武漢・重慶訪問団」です。参加者はテルの母校・奈良女子大学(旧・奈良女子高等師範学校)の卒業生やエスペランチスト、歴史研究者、アーティストなど、多彩な顔ぶれ。共通していたのは、歴史や平和問題への強い関心でした。

重慶爆撃遺構・六五隧道惨案遺跡での見学

重慶爆撃生存者と遺族らとの交流会

■団長・竹森浩俊さん:ペンやタイプライターで戦った人たちを忘れない

団長の竹森浩俊さん(65歳)は、奈良エスペラント会の代表です。専門は金属化学ですが、「ホマラニスモ(人類人主義)」の理念に惹かれ、大学時代にエスペラントを学びました。

(左)竹森浩俊団長 (右)武漢エスペラント協会の趙徳智秘書長

竹森さんはテルについて、「昔は『反戦活動をした人』として誰もが知る存在でした。今はエスペランチストの間でも、若い人ではテルを知らない人が増えています」と寂しそうに語りました。一方で近年、日本各地で長谷川テルを顕彰する団体や行事が立ち上がり、エスペラントや中国語から日本語に翻訳された『長谷川テル著作集』が出版されたことに喜びを感じているといいます。

「今は平和が危うい時代です。そんな中で、過去の戦争や戦争に反対した人に学べることは多い。テルもその一人です。エスペラントはかつて反戦活動で重要な役割を果たし、ペンやタイプライターで戦った人々がいた。こうした歴史を掘り起こし、後世に伝える努力が必要だと感じています」と、活動の意義を語りました。

重慶にある国際広播電台旧土湾電力廠址

■西田千津副団長:テルの生き方に学ぶ

副団長の西田千津さんは、奈良女子大学で中国近代史を専攻。大学院時代には、テルの娘・暁子さんと共に学びました。「長谷川テル顕彰の会」が奈良で結成され、テルに対する関心が高まる中、伝説めいた話が独り歩きして、真の姿が知られなくなっている状況に疑問を感じたことが研究本格化のきっかけだと言います。

重慶郭沫若記念館・軍事委員会政治部第三庁の展示パネルを解説する西田千津副団長

西田さんにとって、「テルは勇気のある先輩」。信念を貫き通す彼女の生き方に、「間違ったことには『ノー』と言う勇気をもらった」と言います。そして、「テルは普通の女性だったと思います。誰もが彼女のように勇気を持って、生きることができるはず。皆がそうできれば、世界は変わる。テルの生き方を紹介し、広めることが世界平和への貢献になると思っています」と語りました。

■事務次長・平松悦雄さん:テルの言葉は今の世界にも通じる

テルが重慶で勤務していた国際宣伝処(現在は体育施設)の跡地

大田湾で解説をする平松悦雄事務次長

訪問団事務次長で、日中友好協会大阪府連合会の平松悦雄理事は、テルの良心と勇気に心を突き動かされたといいます。

「1945年に日本は敗戦を迎えましたが、その発端は、中国への侵略戦争でした。その時代に、一人の女性が日本人の良心をもって、『この戦争は、軍部と一部資本家の野合によるもの。あなた方の敵は、海を渡ったここにはいません』と、中国から反戦を訴えていた。テルが指摘した『一部資本家』とは、軍需産業の関係者であり、今の世界にも通じる言葉です」

(右)重慶歴史名人館にある緑川英子関連の展示パネル(左)同館収蔵の緑川英子像

今回訪れた「重慶歴史名人館」は工事中のため、臨時会場で展示が行われていました。緑川英子の写真と名前を確認した一行がその場を離れようとしたとき、日本語の会話を聞きつけた若い女性館長が語りかけてきました。

重慶歴史名人館にて

「現在はリニューアル工事のため、コレクションの一部しか陳列できていませんが、収蔵品には緑川英子の等身大の彫刻像もあります」。見せてくれた図録には、着物姿の緑川英子の像が写っていました。それを見た瞬間、平松さんは感極まるものがあったと言います。「テルは世界の反戦平和のシンボルですが、日本では教科書にも載っていないし、政府も何も教えない。しかし、武漢や重慶では、彼女の足跡を残してくれている。平和に関する問題では、日本と中国とで大きな差があると感じました」。

■エスペラントが結ぶ平和のつながり

重慶エスペラント協会が主催した交流会

9名のエスペランチストが参加した今回の訪問団は、武漢・重慶のエスペランチストから心温まる歓迎を受け、言語の壁を越えて心を通わせる貴重な時間を過ごしました。

重慶エスペラント協会の趙徳智秘書長は学習歴46年のベテラン。会社経営の傍ら、エスペラントを通じた国際交流を続けています。「緑川英子の反戦平和思想はエスペラントが追い求める『世界大同』の理念、中国が進める人類運命共同体の理念に通じる」と趙さんは敬意を表しました。

奈良般若寺に建てた長谷川テル訪問記念の碑の制作者・坂口紀代美さんが思いを語る

また、日本エスペラント協会の森川副理事長は、「交流こそがエスペラントの精神。日本文化は中国からきた漢字で成り立っている。だからこそ、中国と日本は仲良くしていかなければならない」と語りました。

■なぜ今、長谷川テルなのか

エスペラントで「希望」を歌う中日両国のエスペランチストたち

今の時代になぜ長谷川テルなのか。エスペラント活動歴60余年の土居敬和・智江子さん夫妻は、「テルは日中の関係の中で、自分の信じた道を進みました。彼女は“人類の一員”として行動した。今の時代に生きる我々が、人類の一員として何ができるのかを考えさせられます」と語ります。

戦後80年――売国奴と呼ばれながらも中国で反戦を訴え続けた女性・緑川英子こと長谷川テル。彼女が結んだ平和の絆は、世代を超えて、今なお人々を激励し続けています。

(取材:王小燕 任春生 文責:王小燕 校正:鳴海美紀)

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