



この5月に新著『おそるべき中国一強の時代へ』を出版した富坂聰氏。これまで、執筆の動機や、日本社会に蔓延する歪んだ中国認識、それを助長する商業ジャーナリズムの構造について語ってもらいました。
最終回となる今回は、中日関係の現状をどう打開するのか、そして両国が本来どのような関係を目指すべきなのか、具体的な提言を聞きました。
■最適解はイデオロギーの中にはない
――富坂さん自身も、中国に対する認識が変化してきたといいます。そのきっかけは何だったのでしょうか。
実は、私は2012年頃までは、中国の未来は本当に大丈夫なのだろうかと思っていました。最大の要因は、腐敗、格差、環境破壊です。この三つの視点から見た時、中国の持続可能性に疑問を感じていました。
しかし、中国が自らの手で反腐敗を進め、腐敗を打ち砕いたことは大きかったと思います。反腐敗をやり切った中国、格差の問題を重視し、改善していく意志を持つ中国を目の当たりにして、評価は大きく変わりました。
今はむしろ、西側社会の方が格差を埋められなくなっています。そこに私は非常にネガティブな印象を持っています。さらに、西側社会では選挙のたびに借金を増やしてバラ撒きを行う。これが持続可能だとは思えませんが、誰も止められない。この社会は本当に大丈夫なのかなと思っています。
「緑水青山は金山銀山」の理念の発祥の地として知られる浙江省安吉県の余村(2026年3月30日、浙江省安吉県、写真:CFP)
――言い換えれば、イデオロギー的な視点ではなく、実態に即した見方で、持続可能な発展を共に目指していけばよいということでしょうか。
実行力があり、実際に社会を良くすることを目標にすればいいのだと思います。大事なのは、やり方やプロセスそのものではありません。それに最適解は、イデオロギーの中にあるわけではないと私は思います。
■日中韓の連携強化を経済成長の原動力に
――中国と日本は隣国で、非常に近い関係にあります。どのような付き合い方が求められるのでしょうか。
協力できることを探す関係がよいと思います。隣国同士で問題を抱えてない国はありません。どこも深刻な問題を抱えていますが、日本と中国ほど、うまく関係を築けていないケースもあまりないのではないかと思います。
たとえ日本が米国のために何かするにしても、自国の利益を犠牲にしてまで中国と対峙する必要はありません。ところが、今の日本はそうした選択が全くできていない。米国の利益と日本の利益は完全に同じではありません。どこが違い、どこが同じなのかを区別したうえで、中国ときちんと付き合っていくことが非常に大事です。
西側の考え方で言えば、これからの世界はグレートパワーゲームの時代に入ります。残念ながら、日本はミドルパワーであり、グレートパワーには入りません。では、どうするのか。
考えてみると、私たちの足元には、日中韓という素晴らしい「極」、つまりポールがあります。日中韓は人口やGDP規模から見ても、素晴らしいグループになり得ます。これは他を排除するという意味ではありません。日本は日中韓をプラットフォームとして、他国と交渉していく必要があります。そうしなければ、次のグレートパワーゲームの世界で、加速度的に置き去りにされる可能性があります。
2025年中日韓経済セミナー・友好都市円卓会議(2025年6月17日、武漢市、写真:CFP)
――しかし、現状はなかなかそうした方向に向かっているとは思えません。
日中韓には非常に大きな潜在力があります。ただ、それを本当に生かす知恵が、日中韓の政治レベルにあるかどうかにかかっています。
ある意味で、日中韓は非常に壊しやすい関係です。誰かが邪魔だと思えば壊しやすく、対立させようと思えばいとも簡単に対立させられる。極めて脆弱な関係でもあります。
日中韓について私が言っているのは、同盟の話ではなく経済的な枠組みの話です。この地域で経済的なメリットを生み出していくということです。安全保障とは切り離し、中国とうまく付き合っていく。そのためには、日本の政治家がどれだけ覚悟を持って取り組めるかが問われます。
■日中関係の現状打破、政治家より先に国民が変わろう

――中日関係の行き詰まりを打破するには、何が大事だと思いますか。
私は、現状打破するのは難しいと思っています。特に、今の政権の下では難しいでしょう。だから、少し痛みは伴うかもしれませんが、日中関係が悪化したらどれほどのデメリットがあるのかを、一度見える形にして、テーブルに並べてみればよいのではないかと思っています。
ある種、悪くなるものは一気に悪くなった方がよいという、加速主義的な考え方もあります。そこまで大げさでなくても、日中がどの程度互いに依存し、その上で今の状況が成り立っているのかをきちんと見た上で判断する必要があります。長期的に見れば、むしろ落ちるところまで落ちてもいいのかもしれない、という気もしています。
――ソフトランディングよりも、一度ハードランディングさせた方がよいということでしょうか。
そうですね。一度ハードランディングした方がいいのかもしれません。もちろん、私は予言者ではないので分かりません。ただ、嫌中ムードが高まっている状況では、選挙で落ちるリスクを考えると、政治家が思い切って、中国との関係を良くする方向に舵を切るのは難しいと思います。
そういう意味で、政治家主導で変わっていくということはあまり期待できないのであれば、日本人自身が変わらなければなりません。そのためには、デメリットを可視化する、デメリットを体験する、デメリットを自分で知る、というプロセスが必要なのかもしれない。
本来は頭の中で考えればデメリットは計算できます。そうできれば一番よいのですが、残念ながら、今はそういう状況になっていません。
――最後に伺います。この本を一番読んでほしいのは、どのような人ですか。
これまで中国について大して知らないにも関わらず、非常に攻撃的な言論をしてきた日本の人たちに読んでもらいたいです。「あなたが考えていることは違っていますよ」ということを伝えたいですね。

――高市首相にはいかがですか。
(笑)。政治家も読んでくれたらうれしい、という程度ですね。彼らは結局、選挙に落ちたくないわけですから、そんな危ない選択はしないと思います。そこから変わるのはなかなか難しい。もっと下から変わらなければならないと思います。
(聞き手・構成:王小燕、校正:MI)
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