現役自衛官中国大使館侵入事件の深層 元自衛官・小西誠氏「旧日本軍の精神教育の継承と強化に警戒を」

CGTN

3月24日に起きた、日本の自衛隊の現役自衛官による中国大使館への侵入事件は、いまだ全容が明らかになっていない。中日関係の冷え込みを背景に発生した今回の事件をどのように捉えるべきか。元自衛官で、現在は自衛隊員を対象とした「自衛官人権ホットライン」を運営しているジャーナリスト・軍事評論家の小西誠さん(77歳)に話を聞いた。

小西誠さん

■放置すれば再発する「危険なテロ未遂事件」

「勤務時間に起きたテロ未遂事件」――小西氏は今回の事件をこう位置づける。単なる建造物侵入ではなく、外交施設に対する「テロ行為」にあたるもので、政府はその重大性を十分に認識すべきだと指摘する。

小西さんは、「自衛隊の最高指揮官である首相が、部下の犯罪に対して直接責任を認めず、台湾問題の国会答弁と結びつけて事実上正当化する姿勢は問題だ」と述べる。日本政府が謝罪を避ける背景には、「対中関係で弱腰とみられるのを恐れる政治判断」があるとみている。

日本政府や一部メディアは事件を「個人の暴走」と片づけようとする傾向についても、小西氏は否定的だ。1970年の三島由紀夫事件を例に挙げ、当時、自衛隊の情報部隊が三島グループと繋がり、武装右翼を駐屯地に導入するなど協力関係があった事実に触れる。

1970年11月25日、陸上自衛隊東部方面総監部(東京・市ヶ谷)のバルコニーで演説を行う作家・三島由紀夫(写真:CFP)

「組織全体が大規模に右翼化することはないが、小規模な過激派グループは常に存在する。今回の事件は個人の問題ではなく、自衛隊内部に蔓延する思想と教育体制が生んだ組織的問題だ」と指摘し、「放置すれば、さらに深刻な事件が発生する可能性が高い」と警鐘を鳴らした。

■幹部候補生教育「旧日本軍の精神教育を全面継承」

容疑者は民間大学卒業後、陸上自衛隊の幹部候補生学校で約1年間の教育を受け、事件は修了直後に起きたものだった。小西氏は、「事件は幹部候補生学校の教育がもたらした結果」とみている。

自身も1964年に15歳で少年自衛官として入隊した小西氏は、宮崎県出身で、当時は薩摩の尚武思想に影響を受けて軍人を目指したという。しかし入隊後、現実は戦前の日本軍の体制がそのまま導入されていることに触れ、「この状態を許してしまうと、とんでもない社会になる」と大きな衝撃を受けたと振り返る。当時は旧軍出身の幹部も多く、内務班での暴力やパワーハラスメント、戦前の価値観が色濃く継承されていたという。

小西誠氏が、自衛隊の治安出動訓練への反対表明などを理由とする懲戒免職と闘った過程の記録した代表作『反戦自衛官』

旧軍出身の教官が1980年代に退職した後も、精神教育の根幹は大きく変わっておらず、侵略戦争を「大東亜戦争」と呼んで正当化し、靖国神社を軸とした死生観教育が続いていると述べている。

また、1974年の防衛事務次官通達で、政教分離原則に抵触するため組織的な靖国参拝(部隊参拝)が禁止されたのにもかかわらず、自衛隊各校で公然と参拝が行われている実態があると指摘する。

■「戦前と同じ伝統の中に位置づけられる」自衛隊の実態

小西氏が最近注目するのは、オックスフォード大学の博士論文「Making the Military: The Hidden Curriculum at Japan’s National Defense Academy」(『「軍隊の形成:日本の防衛大学校における隠れたカリキュラム』、ベン・モラー氏、2025年提出、204ページ)だ。モラー氏は、防衛大学校で13カ月にわたってのフィールドワークを行い、学生の「隠れたカリキュラム」を分析している。

ベン・モラー氏の博士論文(表紙および概要ページ)

論文では、防衛大学校の学生が毎年行う夜間行進(横須賀キャンパスから65〜70kmを徒歩で靖国神社まで移動)を詳細に取り上げている。この行事を通じて、学生は「アジア太平洋戦争中に帝国軍隊のために戦った軍人たちと同じ伝統の中に自らを位置づける」よう教えられていると指摘する。小西氏はこの分析に深く同意する。

中国のSNS「Weibo」に投稿された防衛大学校学生による靖国参拝の様子(2025年秋)

行進は、「学生有志の自主参加」とされているが、移動や宿泊、保険などの費用は大学(公費)が負担しており、実質的には公式行事だと小西氏は指摘する。

防衛大学校に限らず、他の自衛隊教育機関でも、皇居や東京タワーの見学を名目に靖国参拝を行うケースが見られる。

特に海上自衛隊幹部候補生学校(広島県江田島市)では、1957年以降、遠洋航海の出発前に初級幹部およそ165人規模での集団参拝が続いており、「ほぼ公式行事」として定着しているとされる。

さらに人的な結びつきについても、小西氏は指摘する。靖国神社の崇敬者総代(氏子総代)には、元幕僚長クラスの自衛隊OB将官が複数就任しているほか、2024年には史上初めて元海上自衛隊の海将である大塚海夫氏が宮司に就任した。こうした動きについて、小西氏は、両者の構造的な結びつきが強まっているとの見方を示している。

■今も靖国神社が自衛官の「精神的な支柱」

なぜ靖国神社との関係が指摘されるのか。小西氏は、死をどのように捉えるかという教育との関係に着目する。つまり、無意味な死を名誉として美化する装置として靖国を利用しているという点だ。

桜の季節の靖国神社(東京・千代田区)(写真:CFP)

「靖国(神社)は過去の遺物ではない。台湾有事を口実に軍拡と戦争準備を加速させる中で、靖国の役割はさらに重要になっている」と強調する。

小西氏は、自国防衛を目的に創設された「自衛隊」が、海外で戦争を行うには「明確な大義がない」にもかかわらず、実際には海外戦闘を想定し、戦死後の遺体修復・処理の専門業者と契約する段階にまで至っていると話す。そのため、「『戦死は名誉であり神になれる』という死生観教育が不可欠となり、靖国神社が精神的な支柱となっている」とし、戦争を現実的に想定する体制の中で、隊員に死の意味を与えるため靖国が利用されている構造を指摘する。

■ 「新しい帝国主義」へ突き進む日本政府

近年の防衛費の倍増や、武器輸出三原則の撤廃、非核三原則の一部緩和、南西シフトによる対中戦争体制といった安全保障政策の見直しの動きについて、小西氏は「新しい帝国主義だ」と批判する。

こうした流れは、2010年の防衛計画大綱から始まり、民主党政権下で日米間の動的防衛協力が決定され、2022の安保三文書で敵基地攻撃能力が明文化されたと振り返る。2025年11月の高市早苗首相による「台湾有事は日本の存立危機事態になり得る」という答弁は、この延長線上にあるとしている。

小西氏は、高市首相が発言を撤回できない背景について、構造的な理由があると指摘する。

「これは戦略的曖昧性から戦略的確実性への転換であり、高市首相の発言はその意図を体現している。発言を撤回すれば参戦しないことを宣言することになり、軍拡路線を停止せざるを得なくなるため、撤回できない」

2026年3 月 19 日夜・東京 衆議院第二議員会館での集会(写真:CFP)

しかし、一部の政治家が戦前の軍事強国を復活させたいという「精神的な願望」がある一方で、「日本は軍事的戦争ができない国だ」と小西氏は指摘する。日本は少子高齢化で自衛官のなり手が不足しているだけでなく、「憲法第9条に象徴されている平和主義が隅々まで浸透している」と強調する。特に、最近のウクライナ危機やイラン情勢などを通じて、戦争が現実の問題として捉えられ、若者を中心に危機感が高まっていることから、国会議事堂前をはじめ、全国各地で抗議集会が行われるなど、軍拡に反対する動きが広がっている。「無関心層が立ち上がり始めている。この動きは日本社会の大きな流れとなる」と小西氏は期待を込める。

■日中平和友好条約を土台に アジア全体の平和的な枠組みの構築を

小西氏は、日本が過去に大陸を侵略した歴史を直視し、反省すべきだと述べた。そのうえで、日本は「四周を海に守られている島国」という立地を踏まえ、「最小限の防衛力で安全は確保できる」とし、今後も憲法第9条に基づく非武装平和主義を基本とすべきだと訴えた。

さらに、「日中平和友好条約を基盤に、アジア全体の平和的な枠組みを構築することを最優先すべきだ」と主張した。そのうえで、「軍拡や対立路線を見直し、日中友好を深めることこそが、日本の安全と地域の平和につながる」との考えを強調した。(取材・記事:王小燕、校正:MI)

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