


中国では、2026〜2030年の経済と社会の中期ビジョンとなる「第15次五カ年計画」が、来春の全国人民代表大会で最終決定します。それに先立ち、今年10月に開催された中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議では、その骨格を示す「第15次五カ年計画への提案」(以下「提案」)が発表されました。このシリーズでは、今後5年間で中国が進もうとする方向をめぐり、中国の産業政策や日本との経済・貿易関係の発展、省エネと環境技術での協力などの視点から日本人学識者3人に伺った話をお届けします。3回目のゲストは日本の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)北京事務所の斧宗一郎所長です。
地球規模の課題解決に共に貢献を〜NEDO北京事務所・斧宗一郎所長に聞く〜
中国が掲げる「3060目標」、すなわち2030年までのカーボンピークアウト(排出量をこれ以上増やさずに ピークに達する)と、2060年までのカーボンニュートラル(排出量実質ゼロにする)の実現に向けた取り組みが加速しています。
2020 年 9 月、習近平国家主席は、国連総会の一般討論演説で、この目標を国際的に表明しました。第15次五カ年計画の策定に向けた提案では、この「3060目標」の実現があらためて強調され、「経済・社会の発展の全面的なグリーントランスフォメーションを推し進め、『美しい中国』を築く」と打ち出されています。
年間20万台の新エネ車を製造できる広州汽車傘下のスマート化新エネ自動車工場(湖南省長沙市・2025年7月)
こうした中、中国の省エネルギーと環境保護の現場でなにが起きているのか、また今後の中日協力にあり方にどのような影響を及ぼすのか。NEDO北京事務所の斧宗一郎所長に話を聞きました。
科学技術力で産業全体の底上げを
NEDOは、エネルギーや地球環境問題の解決と産業技術力の強化を目的に、経済産業省の下で技術開発を支援する機関です。斧所長によりますと、NEDOは中国では1995年に北京事務所が設置され、これまで30年にわたり、国家発展改革委員会や商務部など中国政府機関と連携し、省エネ分野を中心に約100件の協力プロジェクトの実施を通じて中国の環境保護や技術力の向上に貢献してきました。
NEDO主催の中国のエネルギー管理事業者との交流会(福建省厦門市・2025年7月/提供写真)
斧所長は、中国が「3060目標」の実現を新たな産業発展の原動力と捉え、大規模な社会実装を進めていると指摘し、第15次五カ年計画の提案からは、「中国政府が取り組みをさらに強化していく姿勢がうかがえる」と話します。
「第14次五カ年計画と比較して、『現代化産業体系の建設』の優先順位が、『高水準の科学技術の自立自強・新質生産力の発展』よりも引き上げられたことが重要だ。第14次五カ年計画の策定時には、米国との技術摩擦への対応から『科学技術の自立自強』が急務だったが、この5年間で中国は目覚ましい成果を上げた。次の段階では科学技術力を基盤に産業全体の底上げを図る方針を示したと言える」。
NEDO主催の中国での企業見学(福建省厦門市・2025年7月/提供写真)
高まるエネルギー管理需要 日本企業に新たな商機
2024年7月に現職に着任した斧所長は、中国各地のエネルギー管理をはじめとする省エネ対策や水素社会実現に向けた取り組みの現場を精力的に訪問しています。
「中国では脱炭素化が国家戦略として位置づけられ、中央政府の方針が地方にまで徹底されている。これにより、政府目標を前倒しする形で、再生可能エネルギーの導入が急速に進んでいる」。
斧所長はこうした動きを通じて、「中国ではエネルギー管理の需要が高まっており、日本企業にとって新たな商機となる」と指摘します。
連雲港市にある火力発電所(江蘇省連雲港市・2024年9月)
背景には、太陽光や風力など再生可能エネルギー由来の発電設備導入の急拡大と、新エネルギー車の急速な普及があります。再エネ電力は天候などによる発電量の変動が大きく、電力の安定供給が喫緊の課題です。中国政府はこの問題に対処するため、再生可能エネルギー発電所に大規模な電力貯蔵が可能な設備導入の義務づけなどを行いました。その結果、リチウムイオン電池などのエネルギー貯蔵設備容量は2024年まで3年連続で2倍以上の伸びを示しました。
さらに、電池価格の低下により、電力需要の多い工場などでは昼夜間の価格差を利用した蓄電設備の導入が進み、年間販売台数が750万台を突破した電気自動車の電池を電力網などへの電力供給に活用する「V2G(Vehicle-to-Grid)」の実証実験も活発化しています。
V2G(Vehicle-to-Grid)実証実験の様子(山東省淄博市・2025年5月)
斧所長はこれらの動向を踏まえ、「中国では今後、これまで以上に高度なエネルギー管理技術が求められるようになるだろう」と予測します。また、「日本のエネルギー関連技術や製品は、性能や安定性、安全性で優位に立っていたものの、価格面で敬遠されるケースが少なくなかった。これは日本の技術や製品が必要以上のスペックを備えていたため。今後はエネルギー管理システム(EMS)やスマートコミュニティ、省エネ、スマート保安といった分野で、日本企業が得意とする緻密なエネルギー管理技術がより適切に評価される市場に成熟していくだろう」と期待を込めて分析しています。
競争から共創へ 中日が共に進む道
中国の技術力向上が日本企業に及ぼす影響について、斧所長は、「競争は避けられない」と認めつつも、「注目すべきポジティブな影響もある」と指摘します。
北京冬季五輪選手村の駐車場にある新エネ車用充電施設(2025年1月・北京)
「中国は巨大市場であるため、新技術が応用されると大量のデータが収集でき、顧客ニーズを吸い上げることが可能です。これを新技術開発に活用し、より売れる商品開発に役立てることができます。また、中国が新たな産業分野を開拓し、顧客を引きつけるようになれば、日本企業もその商流に乗ることでメリットを得られます」。
斧所長は第15次五カ年計画の期間中、中国の脱炭素社会実現への取り組みが「国際協力」の面でもさらに強化されると見ています。そして、「日中は互いの強みを活かし新しい価値を創ること(共創)により、第三国の課題解決に貢献していくべきだろう。そうしないと、過度な競争の悪循環に陥ってしまう」と訴えました。
北京市大興区で水素の充填をするバス(2023年7月・北京大興国際水素エネルギーモデル区)
両国がそれぞれの強みを活かして、協力できる分野について、斧所長は事例として、水素社会の実現を上げました。
「水素は脱炭素化に不可欠なエネルギーだが、コスト面など課題も多い。中国は、水素社会の実現に向けた水素の生産・応用・国際展開などで優位性があり、日本は製造・輸送・貯蔵などの分野において高効率で信頼性・安全性の高い技術を有しています。両国が連携すれば大きな可能性が開けるはずです」。
高速道路にある水素ステーション(2025年10月・湖北省潜江市)
協調して地球規模の課題解決へ
斧所長は、中国の強みを「市場規模の大きさ」「政策主導による迅速な発展」「規模の経済を活かした商業化・量産能力」と分析する一方、製造業のエネルギー消費や石炭依存度の高さ、世界最大の二酸化炭素排出量などの課題も多いと指摘します。
「日本の優れた省エネ・環境技術を活かした協力は、中国だけでなく、地球規模のエネルギー・環境問題の解決にも繋がる非常に意義深い取り組みです」。
そのうえで、「日本側としてまず必要なのは、中国の最新の取り組みを正確に把握することだ」と強調し、「政府と企業の双方で、現地視察や人的交流を強化し、現状を適切に把握する体制を構築すべきだろう」と提言しました。
2025中国国際クリーンエネルギー博覧会水素製造・充填ステーションの模型を見学する参加者(2025年3月・北京)
最後に、斧所長は、今後の中日協力のあり方について、次のように締めくくりました。
「競争が激化するなかでも、両国が協調しつつそれぞれの強みを活かして、第三国市場の開拓を模索していくことこそが、地球規模のエネルギー・環境問題の解決に貢献し、過度な競争の悪循環を回避する現実的な道筋となると期待しています」。
(取材・記事:王小燕、校正:MI、写真:視覚中国)
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