高市首相の安保政策 日本を「より深いジレンマに」 中国の学者が指摘

CGTN

日本の高市早苗首相による「存立危機事態」をめぐる発言が波紋を広げ続けるなか、日本メディアの報道によると、安全保障を担当する首相官邸関係者が「日本は核を持つべきだ」と発言しました。

政権発足から2カ月にも満たない段階で、内外の世論を揺さぶり続けている高市氏の安全保障政策について、中国社会科学院日本研究所の孟暁旭研究員に22日、話を聞きました。

■「核保有」発言は「軍事拡張に向けた世論づくり」

孟氏は、日本の首相官邸関係者による「核を保有すべきだ」との発言について、日本が「普通の国」になることを掲げ、「再軍備化」に向けた動きが加速するなかで発された言説だと指摘します。

孟氏は、「この発言は、日本の右翼・保守勢力が『周辺の安全保障上の脅威』や『米国の核の傘は本当に日本を守るのか』といったレトリックを用いながら、『非核三原則』と国際的な核不拡散体制の限界を探り、政策転換と軍事拡張に向けた世論の下地を作ろうとするものだ」と分析します。

さらに、こうした言論は、日本国憲法の平和主義に反し、「核拡散防止条約(NPT)」における義務にも背くものであると指摘したうえで、「『世界唯一の被爆国』として日本が掲げてきた核兵器反対のナラティブとも極めて矛盾しており、日本の核軍縮に対する国際的な信頼度を著しく損なうものだ」と評価しました。

2025年8月6日夜 広島平和公園での灯籠流し

■高市首相の安保政策 安倍路線よりも「強硬」

安倍路線の継承を訴えて政権の座に就いた高市氏ですが、孟氏は、両者の安全保障政策を比較し、「高市首相は、安倍元首相以上に強硬な路線を歩んでいる」との見方を示しました。その一例として、自衛隊幹部出身者を安全保障担当の首相補佐官へ起用した点を挙げ、安倍政権下でも行われていなかった人事だと指摘しました。

孟氏はさらに、「安倍元首相が重視したのは、対外的な抑止や攻撃能力そのものよりも、『戦後レジームからの脱却』に基づいた戦略的自律性だった。一方、高市氏は、『自立する日本』と日米同盟の強化を抑止力向上の手段に位置づけている。その真の狙いは、地域の安全保障でより大きな役割と責任を担うことであり、そこには強い対外軍事介入への衝動がうかがえる」と述べました。

また、孟氏は、高市氏が施政方針演説で訴えた「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」の「取り戻し」についても言及。その背景には、「日本が慣れ親しんできた自由で開かれた安定的な国際秩序が、パワーバランスの歴史的変化と地政学的競争の激化によって大きく揺らいでいる」との認識があると指摘します。そのうえで、高市政権の外交と安全保障観は、「濃厚な地政学的対抗の色合いを帯びており、対抗そのものを日本の安全保障政策の拠り所にしている」と懸念を示しました。

2025年10月24日 高市首相の所信表明演説

■自立重視の「高市安保」はより自律性の欠ける方向へと向かう

孟氏は、安倍路線以上に強硬で、「自律性」を追求しているとされる高市氏の安全保障政策について、「結果的には、より自律性を欠くものに終わるだろう」と、そこに内在する矛盾を指摘します。

「高市氏は防衛力を大幅に強化し、抑止戦略、さらには先制攻撃能力へと舵を切りつつあり、軍事大国化の道へ進めている。しかし、日本は米国への戦略的依存から脱却することはできない。日米同盟の枠組みの下では、日本の軍事現代化、つまり、『防衛力の抜本的強化』は、米国の同意と支援なしでは成り立たないからだ」。

2025年10月29日 訪日の米ヘグセス国防長官を迎える小泉進次郎防衛相

孟氏は、日本が掲げる敵基地攻撃能力、後方支援、情報共有、武器供給網などいずれも米国主導で構築されており、日本の抑止力も米国の支援を基盤としていると指摘します。また、「日本は抑止力維持のため、世界で最も高コストな米軍前線基地を抱え、増大し続ける駐留費用を負担せざるを得ない」と述べ、「その結果、高市氏が率いる日本の安全保障政策は、安倍政権時代よりも『自律性』を欠くものになるだろう」と語りました。

さらに、高市氏が米国に対し、「従順さと引き換えに安全保障を得る」姿勢を取っているとも指摘。「日本の立場を変えることで日米同盟の存在基盤を強化し、米国がアジア太平洋地域から撤退することを防ごうとしているものの、これは同時に、米国の地域戦略と安全保障の枠組みに、一層深く組み込まれることを意味する」と分析しました。

2025年11月21日 非核三原則見直し検討反対の市民が国会前で集会

■対立は利益をもたらさない 深まる日本の安全保障のジレンマ

中日間の緊張が高まっている背景について、孟氏は、次のように分析します。

「『アメリカ・ファースト』を掲げるトランプ政権は、日本を『第一列島線』の中枢かつ前線として位置づけようとしている。こうしたなかで、高市氏が推進する『敵基地攻撃能力』は、米国の『前方防衛(Defend Forward)』戦略と完全に一致している。しかし、米国は最優先するのは、あくまで自国の安全保障と利益であり、ライバルを牽制するための手段として日本を利用しているにすぎない」。

孟氏は、高市氏もその現実を認識しながら、意図的に米国を通じて中国を牽制しようとしていると指摘。その結果、「元から戦略性に欠ける高市政権が、深い戦略を持つ米国と共振する形で、日本の安全保障のターゲットが隣国へと向かっているのが現状だ」と分析しました。

こうした状況について孟氏は、「日本にとっても、地域の安全保障にとってもプラスにはならない」と強調したうえで、次のように指摘しました。

「米国の影響を受け、日本は次第に『力による平和』の理念を奉じるようになり、NATOの『信頼できる抑止力』を基準に軍隊を強化・精鋭化しようとする動きに出ている」。

2025年12月16日 高市政権編成の補正予算案が参院本会議で採決

■防衛費拡大と財政負担 遠のく「強い日本」

12月16日、日本ではコロナ禍以降で最大規模となる18.3兆円の補正予算が成立しました。そのうち約1.1兆円が防衛関連支出に充てられ、2025年度の防衛費は一気に約11兆円規模へと拡大し、防衛費のGDP比2%という目標も2年前倒しで達成される見通しです。

孟氏は、日本が経済低迷と財政難に直面するなかで、平和という戦後の資産を浪費し続ければ、「強い日本を作るどころか、むしろ国力の弱体化を招くだけだ」と警鐘を鳴らします。

そのうえで、「高市氏は『国民の不安を希望へと変える』と声高らかに宣言しているが、今の高市政権の政策は、日本を平和からますます遠ざけ、安全保障上のジレンマに一層深く陥らせることは必至だ。歴史と事実が示すように、対立は双方に損害をもたらす。地域の緊張を煽るのではなく、相互利益を追求することこそが本筋である」と訴えました。(取材・記事:王小燕、校正:MI、写真:CFP)

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