


中国では、2026〜2030年の経済・社会の中期ビジョンである「第15次五カ年計画」が、2026年春の全国人民代表大会で最終決定される予定です。それに先立ち、先月開かれた中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議では、その骨格を示す「第15次五カ年計画の策定への提案」(以下「提案」)が採択されました。このシリーズでは、2026年からの5年間に向けて中国が進もうとする方向性に注目し、経済の安定成長、中国の産業政策、日本との省エネ・環境技術の協力などの視点から3人の日本人学識者の着目点を紹介します。1回目のゲストは、エコノミストで、プロジェクト・マネジメント会社のテラ・ネクサス(Terra Nexus)」の最高経営責任者(CEO)の田代秀敏氏です。

安定成長に向けての土台作り〜エコノミスト・田代秀敏氏に聞く〜
「米国であれ、日本であれ、自国経済を強くすることを目指すのなら、中国の発展を自らへの『追い風』としなければなりません。中国とのデカップリングこそが自国経済に対する最大の脅威であることを政治指導者は理解しなければならないのです」――これは、田代氏がCGTN日本語のインタビューで述べたことです。
田代氏にこう言わせた背景は、中国経済の安定成長です。これまでの5年間、世界中で高まる不確実性を横目に、中国経済は年率5.5%前後の伸びを保っており、世界経済への寄与度も30%前後の安定さを保ってきました。
また、経済の底上げを背景に、中国の社会も静かに変化しています。デジタル革命の進化で、電子マネーが急速に普及しただけでなく、「人々の行動規範が全く変った」と田代氏は言います。初訪中は1998年。「当初に比べれば、最近の訪中では、行列への割り込みが見えなくなり、人々は静かに順番待ちをしています」と田代氏は驚きを隠せない表情です。
メーデー連休終盤の上海虹橋駅(2025年5月・上海)
2026年から始まる次の五年間、果たして中国の経済・社会が安定成長を継続していけるのかーーこれこそが、田代氏が「提案」に最も関心を抱いたことです。
■生産要素の市場化改革が安定成長の基盤に
「第15次五カ年計画の策定への提案」では、持続可能な経済成長と高水準の対外開放を両輪とする発展戦略を明確にし、中国経済が質の高い発展へ転換を図る中で、国内改革の深化と国際協力の拡大を包括的に推進する方針を示しています。田代氏は、これらの取り組みが、向こう5年の中国経済に安定成長への土台づくりになるよう期待を寄せました。
田代氏は、提案が「各種企業体の活力を最大限に刺激し、要素の市場化(各種生産要素の配分について、政府の影響力を低減して市場原理にゆだねていくこと)による配分体制やメカニズムの整備を加速し、マクロ経済ガバナンスの有効性を高めなければならない」との方針を明確に示した点を高く評価しました。
「労働、資本、土地などの生産要素を市場化し、円滑な取引を可能にする制度整備は、中国経済の長期にわたる持続可能な発展に不可欠です」と指摘し、特に、雇用における年齢差別禁止の制度整備など、人的資源の最適配置を目指す改革は、中国経済の潜在成長力をさらに引き出す効果が期待できると話しました。
北京にあるシャオミの電気自動車工場(2024年3月・北京)
また、不動産、地方政府の債務、中小金融機関などのリスクを「秩序立てて解消し、システミックリスクをなんとしても防ぐ」という表明について、解決の難しさを指摘しながらも、「日本のバブル経済崩壊後の苦い経験を生かして、中国の叡智を結集し、地方政府債務リスクの解決を期待します」と述べました。
江蘇省塩城市鹿鳴路の求人市場で仕事を待つ労働者(2025年5月・塩城市)
■「中国経済の潜在成長率は現在も高い」
提案は、中国経済のファンダメンタルについて、「基盤が堅固で、強みが多く、大きな強じん性があり、潜在力が大きく、長期的に良好な発展を支える条件と基本的趨勢は変わっていない」という認識を示しています。
田代氏はこれについて、「中国の潜在成長率は現在も十分に高い」と賛同し、「中国は教育の充実に長く取り組んできており、量だけでなく、質も世界最高水準です。経済が知識化していく世界において、中国の優位性は決定的だと考えられます」と理由を挙げました。
安徽省安慶市岳西県の物流パーク(2025年11月・安慶市)
一方、西側メディアで報じられる中国の「過剰生産」問題について、田代氏はその論調はダブルスタンダードをベースにしており、その本質は中国への差別だと一蹴しました。
「ボーイングの航空機も、アップルのアイフォンも、フランスの高級ワインやブランド品も、自国内の需要を遥かに超えて生産されているものの、『過剰生産』とは言われません。相対的に高品質で相対的に廉価な商品が自国内の需要を大幅に超えて生産されて海外へ輸出されるのは、古くからの普遍的な経済現象です」。
第6回輸入博・消費財展示館のディオールの出展ブース(2023年11月 ・上海)
■高水準の対外開放の拡大と多国間貿易体制の維持
トランプ関税によってもたらされた混乱が、世界経済の成長に陰りを落としています。国際通貨基金(IMF)が2025年10月に公表した世界経済見通しによると、世界のGDP成長率は、2024年の+3.3%から2025年は+3.2%、2026年は+3.1%へと鈍化が見込まれています。
こんな中、提案では、「高水準の対外開放の拡大、協力とウィンウィンの新局面の開拓」が重点項目として掲げられ、「制度面における開放を着実に拡大し、多角的自由貿易体制を維持し、国際循環を拡大・深化させ、開放を通じて改革と発展を促進し、世界各国と機会を共有し、共に発展する」との方針が明確にされました。
上海の洋山深水港(2025年7月・上海)
田代氏はこれに留意し、以下のように指摘します。
「自由な多国間貿易こそが日本経済の存立の基礎です。米国は今や、多国間貿易体制の秩序を破壊することを国是としているので、日本は中国と協力することによってのみ、自由な多国間貿易体制を維持することができます。中国にとっても、日本という相対的に大きな市場を含む多国間貿易を維持することは、長期の利益になります」。
対外開放と自由貿易体制の共同維持は、習主席が2025年のAPECで強調した内容でもあります。田代氏は、習主席が表明してきた「改革開放の全面的深化、対外開放の揺るぎない推進、中国式現代化でアジア太平洋および世界に新たなチャンスを提供していく」という決意は、世界経済の安定成長を実現する環境づくりになると話し、地域やグローバルガバナンスに中国が確実性をもたらしたと示しました。
■環境保護と持続可能な発展へのコミットメント
田代氏が注目している、米国と対照的な振る舞いを見せたもう一つの中国の動きは、環境やエネルギー面での対応です。
浙江省湖州市安吉県余村で、「清らかな水と緑豊かな山々はかけがえのない財産」の理念提唱20年のテーマ展が行われた(2025年9月・湖州市)
提案は「清らかな水と緑豊かな山々はかけがえのない財産(原文:緑水青山就是金山銀山)という理念をしっかりと確立し、実践せねばならない」と明記し、「炭素排出量の削減、汚染の削減、グリーン開発の拡大、成長の促進に向けた努力を連携させる」ことを強調しています。
「米国大統領が自ら国連総会で地球温暖化を『世界市場最大の詐欺』と罵り、脱炭素を否定し、化石燃料の採掘拡大を叫ぶ現在、中国は、米国の脱炭素政策の離脱から地球温暖化対策を守る万里の長城を築こうとしています」と田代氏は指摘します。
江西省吉安市永豊県陶唐郷の高龍山に設置された風力発電機(2025年5月・安吉市)
■保護主義への対応で連携を
今後の中日経済関係について、田代氏は「日本企業と中国企業は協力することで成長を図ること」を提言します。
技術提携のあり方については、「日本から中国へ技術を供与する時代は終わっており、日本と中国とが協力して技術を開発しなければなりません。米国が保護主義へ回帰し、自国第一主義の闇に堕(お)ちてしまった今、日本は中国との協力・提携を進めなければなりません」と中日間に見える新しい機運を活かそうと訴えました。
(取材・記事:王小燕、校正:鈴木 写真:視覚中国)
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