「第2回 日中不再戦・長谷川テル顕彰の旅」参加者が語る  高市政権への懸念と平和への願い

KANKANインタビュー

2025年11月の高市早苗首相による「台湾有事」をめぐる国会答弁をきっかけに、中日関係は急速に冷え込んでいる。そうした中、日本では2026年5月に国家情報会議設置関連法案が成立し、首相官邸主導の一元的な国家情報体制の整備が本格化した。今後は「スパイ防止法」の立法や「外国代理人制度」の導入、「対外情報庁」の設置が予定されており、一連のインテリジェンス機能強化をめぐって、国内の市民団体からは強い警戒や懸念の声が上がっている。

昨秋、「第 2 回日中不再戦・長谷川テル顕彰の旅」で武漢・重慶を訪れた関係者たちは、この状況をどう受け止めているのか。参加者らに話を聞いた。

長谷川テル(1912〜1947年)は、日本による侵略を受けた中国で反戦の声を上げ続けた日本人エスペランチストであり、中国では「国際主義戦士」として知られている。

「第 2 回日中不再戦・長谷川テル顕彰の旅」報告集表紙

■監視社会への回帰を憂う市民の声

「中国の方々と連絡を取り合うだけで、スパイ活動ではないかと疑われるような世の中になりませんように」

こう語るのは、訪中団の主催団体「奈良・長谷川テル顕彰の会」の関係者だ。彼らの危機感は、戦前の暗い歴史と重なっている。

今から94年前の1932年、20歳の長谷川テルは奈良女子高等師範学校の卒業を前に、地元の労農組合と接触したことを理由に治安維持法違反で検挙され、退学処分を受けた。1925年に施行され、1945年まで存在した治安維持法は、多くの思想犯や宗教関係者、自由主義者らを弾圧し、拷問や獄死を生んだ暗い歴史を持つ法律として知られている。

この歴史を知る人々にとって、高市政権が進める情報法制の整備は、「戦争する国づくりの一環として国民監視体制を強化するもの」と映っている。1970年から治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟(国賠同盟)の活動に参加し、現在は国賠同盟奈良県本部顧問を務める田辺実氏(訪問団事務局長)は、「過去を反省しない姿勢こそ、今の『戦争する国づくり』と地続き」と捉え、強い警戒心を示している。

同じく訪問団事務次長の平松悦雄氏は、「国民を監視できるように体制擁護に走っている。1925年以降の反省がないような気がする」と憤りを隠さない。

団員の中西とし子氏は、「戦前のように(自由に)ものが言えない時代になったら、政治が悪い方向に進んでも止めることができない」と憂慮する。

西久美子氏も、「スパイ防止法は、政府にとって国民を統制していくのに都合よく働く可能性があり、危険視しなければいけない」と厳しい見方を示した。

団員で詩人の田中澄江氏は、「稀代の悪法、治安維持法は、戦後廃止されたはずが、(スパイ防止法)のように手を変え、品を変え、脈々と軍国主義を復活させる仕組みを作っている」と指摘し、「国が情報を勝手に流用、国民に知らせない」現政権の「基本的人権を無視した」法整備に異論を唱えている。そして、「武器を作り販売するという、死の商人に成り下がっている」と痛烈に批判した。

2026年5月27日、日本国会の参議院で国家情報会議設置法が成立(写真:CFP)

■軍拡路線への批判:武力による抑止論は幻想

高市氏の「台湾有事」発言から半年以上が経過したが、日中関係改善の兆しは見えていない。その一方で、自衛隊の大規模な再編や、殺傷能力を持つ武器輸出の解禁、長距離ミサイルの配備など、安全保障政策では戦後最大の転換が進められている。

こうした軍事力強化と並行して進む情報法制の整備については、平松氏は、「1930年代以降、日本が歩んできた道の再来だ」と危機感を示す。

田中氏は、高市内閣が「どこかの国が自国に戦争を仕掛けてくる兆候がある、というこれまでの戦争の定番のような、根も葉もない事象を作り上げ、国民の暮らしをないがしろにして、ひたすら軍事費を増やしている」と批判。「若者は未来への希望を描きづらく、刹那的に陥れている」ことを危惧している。

田辺氏は高市政権を「戦後最悪の反動政権」と位置付け、「アメリカ追随の大軍拡路線を新たな高みに引き上げ、最悪の外交・安全保障政策を推進している」と批判する。さらに、「大軍拡は医療や福祉、教育を切り捨て、国民生活と民主的権利を侵害する反国民的な政治だ」と断じた。

紙芝居による平和活動を続ける庄山美喜子氏は、「平和は武力では作れない。武力による抑止論は幻想にすぎない」と語る。そして、「軍事拡大によって国民はますます疲弊している」とし、その姿勢を容認できないと訴えた。

■歴史認識の欠如が招く対立

2025年11月7日、衆議院予算委員会で答弁する高市首相(写真:CFP)

2025年11月、高市首相による「台湾有事」発言については、団員たちからは1972年の日中共同声明をはじめとする中日間の四つの政治文書の精神に反する重大な発言だとの見方が示された。

田辺氏は、「高市発言は、戦前50年にわたり台湾を植民地支配してきた歴史への反省や、日中共同声明で確認された立場を無視するものだ」と厳しく批判する。そのうえで、「高市首相は反省するどころか、逆に日中対立を反動的に利用して大軍拡を進めている」と問題の深刻さを指摘した。

さらに、高市内閣の強硬な対中外交の背景には、日本による中国侵略や植民地支配の歴史に対する反省の欠如、平和憲法の改悪という本音があると多くの団員は指摘する。また、昨秋、重慶で日本軍による空襲を生き延びた被害者と対面した際の様子を思い出し、高市氏の政権運営を非難した。

京都から参加した丹所紀代子氏は、「長年の自民党政権の大企業優先、アメリカ追随、民の生活や命は二の次という考え方の背景には、戦争への反省の不足がある」と指摘した。

田中氏は、高市氏が「中国の政治状況や暮らしについて、本質を観ようとせず、偏見にとらわれた中国への敵対心を煽っていると感じる」と話し、中国への侵略戦争で繰り返された空爆の惨状に向き合う意思がないことを強く非難した。

西氏は、「首相の発言は本当に浅はかで、驚くべきものだ。同じ奈良県人として、また女性として恥ずかしく思う」と語った。さらに、「国民の大多数が物価高騰に不安を抱く中で、無策を覆い隠すように税金を湯水のように使いながら、頭の中は憲法9条改正でいっぱい」と批判した。

5月に入り、高市氏が自民党総裁選などで陣営による他候補への誹謗中傷動画のSNS投稿に関与したとする報道が、国会で取り上げられた。これについて西氏は、SNSを活用した選挙戦のあり方に疑問を呈し、「政治的な対立や分断が煽られているように感じる」と不信感を示した。「高齢ではあるが、弱い声でも上げ続けなければならない」と述べ、今後も活動を続ける決意を示した。

■市民外交で紡ぐ平和の未来

では、日中関係の改善への道はどこにあるのだろうか。

多くの参加者は、日本政府による歴史への真摯な反省と、市民レベルでの友好関係の強化が重要だと考えている。

田中氏は「日中関係の修復を求めるならば、まず加害の歴史を認め謝罪することから始めなければならない」と主張する。

丹所氏は、「今、日本にとって中国は最大の食料輸入先の一つだ。中国からの輸入が止まれば、日本の食料供給や国民生活に深刻な影響が及ぶ。日本の文化も中国を模してここまで来たのに、何を考えているのか」と憤り、「高市さんは発言を撤回し、謝罪を表明すべきだ」と主張した。

エスペラント活動歴60年の土居敬和氏は、「政府間はともかく、市民レベルでの友好関係を強めたい」と話す。さらに、「言葉の違う人々同士でも直接対話できる共通語であるエスペラントの普及を、今後も積極的に行っていきたい」と、市民外交の重要性を強調した。

抗日戦争期の中国で、「あなたがたの敵は、海を越えたこちら側にはいない」と反戦を訴え続けた長谷川テル。その生き方は、今もなお、平和を願う人々を励まし続けている。

西氏は、「テルが求めたアジアや世界の平和は、私たちの大きな目標だ」と語る。

庄山氏も、「もしテルが今も生きていたなら、きっとテルは世界中の人々に『お互い交流しよう!』『対話しよう!』『戦争仕掛け人にだまされるな!』と呼びかけながら奔走していたと思う」と話した。

記事の最後に、助産師である丹所氏からの言葉を紹介したい。

「命の誕生は奇跡です。命を奪う権利は誰にもありません。戦争やめろ!」

この言葉には、平和を願う市民の切実な思いが凝縮されている。

(取材・構成:王小燕、校正:MI)

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