90日間の関税引き上げ停止に定期的な協議メカニズムの設立――これは、中米ジュネーブ経済貿易協議で、双方が合意した内容だった。これにより、トランプ関税で緊迫した貿易情勢が一旦は緩和された。だが、本格的な交渉はまだ始まったばかりである。
米国は重要分野での対中輸出規制は緩和しておらず、現状30%の対中関税は依然として2024年の平均水準を大幅に上回っている。また、90日後に政策が蒸し返されるリスクも依然として高いままだ。格付け会社フィッチ・レーティングスは、米国の実行関税率は依然として、1941年以来の歴史的な高水準にあると指摘しており、貿易戦争の暗雲はいまだ世界経済の上に垂れ込めている。
高関税による痛みは既に十分に明らかだ。4月の関税引き上げは世界の金融市場に大きなインパクトを与え、安全資産としてのドルと米国債の地位を揺るがせた。米国内では、高関税が「もろ刃の剣」となり、貿易赤字を縮小させられないばかりか、インフレを加速させ、サプライチェーンを混乱させている。イェール大学のデータによると、トランプ関税は米国の物価を2.3%押し上げ、1世帯当たり年間3800ドルの損失をもたらしており、中でも低所得層への打撃がとりわけ深刻である。ウォルマートなどの小売業者はサプライチェーンの寸断に直面し、自動車産業は部品にかかる関税のため価格引き上げを余儀なくされ、販売台数が急減する事態が起きている。これらはすべて、「貿易戦争に勝者はいない」という現実を裏付けている。
米国は「リバランス」戦略を通じ、関税という手段でグローバルサプライチェーンを再構築し、経済・社会が直面する一連の問題――政府債務と経常収支の「双子の赤字」、低所得世帯の増加、平均寿命の低下、社会の分断の深刻化といった難題の解決を図ろうとしている。しかし、トランプ政権に今求められるのは、外国に責任を転嫁することではなく、米国の経済・社会に深く根ざした問題の病因を正しく診断し、適切な対症療法を取ることであろう。
米国の政府債務は現時点で既に36兆ドルを超えており、年間の利払いだけで1兆ドルに達し、国防予算を上回る金額にまで膨らんでいる。だが、その原因は米国内の貯蓄率の低下、過剰消費、収入が支出に追いつかず先食いを繰り返す財政政策にある。こうした構造的問題に対して、関税の引き上げだけで対応しようとするのは、まさしく「木に縁りて魚を求む」。
さらに、米国の貿易赤字は2024年、1兆2100億ドルと過去最高を記録した一方、海外との資金往来を示す金融収支に1.27兆ドルの流入超があった。米国が世界からの巨額投資を受け入れて帳尻を合わせてきたことを意味している。背景には、米国はドルの基軸通貨としての地位に物を言わせ、過去20年間でドルの供給量を5.4倍に増やしていることがある。2.7%という同期間の世界経済年平均成長率を大幅に上回っており、資産バブルと信用リスクを押し上げている。
米国は関税で製造業の国内回帰を図ろうとしている一方、国内の高い労働コストとサプライチェーンの不備という現実から目を背けている。中国への半導体輸出を制限しながら、中国産レアアースへの依存を続ける。これらチグハグな対応は米国の経済戦略に内在するパラドックスを露呈している。
中国から見て警戒すべき動きはもう一つある。米国が対中関税の20%をフェンタニル問題と結び付けていることだ。自国の医療システムにおける過剰処方(流通量の80%)や規制の不備などの根本的問題に目を背け、関税を経済とは無関係な圧力の手段として歪めて使用している。ここにも、他国に責任を転嫁する姿勢が見て取れる。
トランプ大統領の関税政策がブーメランのように自国民に痛手を与えている。これを背景に、米国内の世論調査の平均値では、トランプ氏就任100日の支持率が46%にまで落ち、アイゼンハワール以来の新任大統領で最も低い記録を更新した。国内だけでなく、国際社会も米国の関税政策におしなべて批判的だ。「日本経済新聞」は、「自由貿易を壊すトランプ関税に道理はない」と社説で論じ、石破茂首相は、「関税ゼロを目指していくべきだ。10%でいいというわけにはいかない」と明確に表明している。WTO(世界貿易機関)のオコンジョ=イウェアラ事務局長は、「米中間の貿易が80%減少すれば、戦後の貿易秩序は崩壊寸前に追い込まれる」と警告した。
中米は、経済規模が世界の3分の1を超えており、二国間貿易の規模が世界の5分の1を占めている。両国の経済関係は、世界経済の安定に極めて重要である。これは、中米による共同声明の発出を受け、世界主要市場の株価指数はいずれも上向きに動いたことにも表れている。
共同声明の発表で、中米は問題解決を模索するスタート地点に立った。だが、真の試練は、短期的な緩和を長期的かつ安定した制度的取り決めに転換できるかである。トランプ政権に求められるのは、責任転嫁の思考よりも歩み寄りに向けての更なる行動である。そして、自らの構造的問題を直視し、国内改革に着実に取り組む勇気も。国際通貨基金(IMF)が警告するように、関税戦争が再び激化すれば、世界経済の成長率は1.8ポイント低下する可能性があり、これはどの国にとっても耐え難い災厄となるだろう。
歴史が最終的に証明するように、中米経済貿易関係再構築の道のりは長いかもしれないが、双方が「相互尊重とウィンウィン」の原則を堅持しさえすれば、時代の潮流に合った共存の道を見いだし、世界経済に安定性と新たな成長の原動力を注入することができるだろう。(CMG日本語論説員)
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