ドキュメンタリー監督・原義和さんに聞く(前編)沖縄から問う、日本の植民地支配と軍事暴力の起点

KANKANインタビュー

近代化の歩みの中で、アジアへ「進出」した日本。

その歴史の陰には、領土を奪い、人々の尊厳や言語、文化を傷つけた植民地支配の加害があり、普通の人間を殺戮者へと「豹変」させた侵略戦争の現実があった。

そうした歴史を、結果からではなく、起点から見つめ直すこと。その必要性を訴えるのが、ドキュメンタリー監督の原義和さん(56歳)である。

原義和さん

ドキュメンタリー制作に携わって20年あまり。社会問題をはじめ、日本人「慰安婦」問題、沖縄戦、日本による侵略戦争や植民地支配の加害の歴史などを追い続けてきた。テレビ番組の制作を経て、2021年に自身初の自主制作映画を劇場公開。2025年公開の2作目『豹変と沈黙 日記でたどる沖縄戦への道』(以下『豹変と沈黙』)では、中国への侵略戦争に動員された兵士の戦中日記を手がかりに、普通の青年が戦場で人間性を失い、殺戮を繰り返す「鬼」へと変わっていく過程を描いた。

現在、沖縄を拠点に活動する原監督。歴史と現在、理想と現実の狭間で、「人類社会で平和をどう実現できるか」という問いに向き合い続けている。

■1895年の台湾有事」を起点に歴史を見つめ直すべき

2026年5月17日、沖縄県立博物館・美術館で、台湾映画『一八九五』(2008年、洪智育監督)の上映会とシンポジウムが開かれた。司会を務めたのは原さんである。

映画『一八九五』上映会&シンポジウムの様子

『一八九五』は、日清戦争後、台湾が日本の植民地とされた直後に、客家の人々が義勇軍を結成して日本軍に抵抗し、やがて鎮圧されていった史実を描いた作品だ。

この上映会の背景には、昨今日本で「台湾有事」が語られる中、沖縄で軍事基地機能の強化が進んでいることへの原さんの危機感があった。上映会のPRにあたり、原さんは『琉球新報』への寄稿でこう記している。

「いま『台湾有事』を声高に言う政治家がいるが、1895年に日本が引き起こした台湾有事こそが、中国との分断意識や軍事的緊張を作り出した起点であることを忘れてはならないと思う」

原さんが『一八九五』に出会ったのは、ことし1月のことだ。東京の学生団体が、『一八九五』と原さんの『豹変と沈黙』の二本立て上映会を開いたことがきっかけだった。

シンポジウムで司会をする原さん

「日本の教科書では、『1895年 台湾割譲』と一行で済まされることが多いです。けれども、そのとき台湾で実際に何が起きていたのかを、私はこの映画を通して初めて知りました」

原さんはそう振り返る。そして、この作品が自分の問題意識と深くつながっていることに気付いたという。

「『豹変と沈黙』が描く日本軍の暴走と破滅は、突然始まったものではありません。それ以前から、日本の近代化そのものがすでに危うさを孕み、誤った方向へ進んでいたのだと思います」

『豹変と沈黙』では、中国大陸で日本軍が重ねた侵略と暴力をたどっている。しかし、その前に、1895年以降の台湾で、すでに住民を巻き込む軍事的制圧が行われていた。

「1930年代の南京大虐殺につながるような軍事暴力を、日本は1895年の段階ですでにやっていた。そのことを学び、日本の近代化とは何だったのか、アジアで何をしてきたのかということを、起点から見つめ直す必要があると感じました」

■見えにくい「植民地加害」を直視する

原さんは、戦争加害に比べ、植民地支配による加害は見えにくいと指摘する。

領土の奪取、尊厳の破壊、言語や文化の抑圧。そうした暴力は、戦場での殺戮のようには可視化されにくい。さらに、現在の台湾における「親日感情」などの文脈の中で、植民地支配の過ちが抜け落ち、近代化の「功績」として語られてしまう危うさもあるという。

シンポジウムの様子

『一八九五』には、日本軍に追われる義勇軍に対し、土地所有者が「出てこい、さもなくば畑を焼く」と脅す場面がある。原さんはそこに、「武力で制圧するだけではなく、現地住民を取り込み、協力者を作る。そうすることで社会を分断し、支配を成立させていく」という、植民地支配が成立していく一つの構図を見た。

そして、この構図は沖縄の歴史とも重なるという。

「沖縄は、1879年の琉球併合(『琉球処分』)により独立国から日本に編入されました。その後、台湾の植民地化では、沖縄から教師や警察官などが送り込まれ、現地の日本語教育や皇民化に加担させられたのです」

侵略の被害者でありながら、加害者にさせられてしまうという複雑な歴史を、台湾の人々もまた経験していく。やがて日本軍に組み込まれ、南方へ送られて「加害者」にさせられていった。

「植民地支配は、被害と加害の関係をぐちゃぐちゃに絡ませていくのです」

原さんの作品『豹変と沈黙』では、日本軍兵士の戦中日記を通じて、彼らが中国で「鬼子」と呼ばれるような残虐な殺戮者へと変わっていった過程を読み解いている。

また、「捨て石」にされた沖縄で起きた地上戦と、日本軍による中国侵略戦争とのつながりも浮かび上がらせている。

近代日本の出発点にあった植民地支配。中国戦線での加害。沖縄戦。そして現在の軍事的緊張。

原さんは、それらを別々の出来事としてではなく、一本の歴史の流れの中で見つめようとしている。

後編では、『豹変と沈黙』を中心に、沖縄戦と中国戦線、そして記録を残すことの意味について、さらに話を聞く。

(続く)

※本記事に掲載している写真は、すべて本人提供によるものです。

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